オフィシャルインタビュー<中編>
結成4ヶ月ながら『ROCK IN JAPAN 2022』で優勝したり、『LIVE the SPEEDSTAR』オーディションを勝ち抜いたり、結成2年半にして華々しい経歴を持つMaverick Mom。しかし、その実態はまだまだ謎に包まれている。
――果たして、Maverick Momとはどのようなバンドなのか。
アルバム『unknown』のリリースや自主企画『サード・ファンファーレ』の成功などを経て、活動が一区切りしたのをきっかけにインタビューを実施。約1万字になったメンバーの言葉を、全3回でお届けしていく。第2回では、アルバム『unknown』以降にリリースされた3曲や自主企画『サード・ファンファーレ』について語ってもらった。
TEXT=坂井 彩花
――これまでバンドの成り立ちについてお伺いしてきましたが、ここからは結成から現在までを振り返っていきましょう。みなさんにとって、この2年半はどのような期間でしたか。
南出:まだ2年半しか経ってないのもあると思いますけど、わりと一つひとつを鮮明に覚えているというか。あっという間だったわけではなく、この2年半は濃い人生を過ごせたように感じます。
タイゾー:僕も2年半を通してあっという間って感じではなかったですね。1年目はロッキンや『LIVE the SPEEDSTAR』オーディションがあって、目標のためにひたすら打ちこんでいた時期だったので、「もう明日が本番だ」みたいな感じで短く感じていました。勢いが途切れることがなかったたので早く感じたというか。でも、次の1年は濃密でしたね。曲も増えましたし、レコーディング回数も重ねていたので。
ON:僕は、この2年半がけっこう長く感じました。結成当時とか、もはや遠い記憶。いろんなことをやって充実していたから、長く感じているのかな。「こんだけやったぞ」っていうのはある。
中野:濃い時間を過ごしとったから、長く感じるっていうのが正解なんかな。切磋琢磨して、頑張ってこられたと思います。
――4人とも「濃かった」という認識なんですね。具体的には、どのようなことを「濃かった」と感じていますか。
中野:常に新しいことをするから、時間を長く感じていたのかなって思うんですよね。
ON:やっていることがコロコロ変わっていくし、いろいろな曲をやりたいと思っているからこそ、常に1から曲を作っている感じだし。
南出:学校生活って、わりと同じことの繰り返しで、新しいことをやったとしても学校や生徒という枠のなかでの新しい情報なので、たかが知れているものが多かったと思うんです。でも、バンド活動って枠が決められてないし、自分たちが動いた分だけいろいろなものを吸収することができるじゃないですか。ずっと動いていくなかで、あらゆる角度からいろんなものを受け取ってきたから、心身共に長く濃密に感じているのかなって。
ON:もっと売れてツアーとかをやるようになったら、短く感じやすくなっちゃうと思うんですよね。今まではライブが少ないから、1つ1つのステージを目標にしていた感じがあったけど、ツアーをするようになると、同じようなセットリストで同じようなパフォーマンスをやるようになるかもしれない。それは、嫌っすよね。僕は時間を長く感じるのは、めちゃくちゃいいことだと思うんです。この2年半も新しいことをしてきたからこそ、長く感じることができたので。それに、人生は長いので。ツアーをやるにしても新しいことを追求して、人生を短く感じることはなくしたいです。
――「新しい挑戦を続けているからこそ、濃密な時間を過ごせている」という考えは、常に進化を続けているMaverick Momらしい視点ですよね。大阪・東京で行われた自主企画『サード・ファンファーレ』も新しい挑戦だったかと思いますが、こちらはいかがでしたか。
中野:上手いこといって、よかったっすよ。
タイゾー:県外でたて続けに曲数が多いライブをやったことが今までなかったので、そういう意味でも新しい挑戦やったというか。
ON:ホームの金沢でワンマンライブをしたことは何回かあったけど、そもそも自主企画が初めてだったもんね。
南出:めちゃくちゃ楽しかったです。
ON:ステージに登場したときに歓声をもらえたのも久しぶりだったので、「よーし、やるぞ!」ってテンションが上がりました。自主企画だから、僕らの曲を知ってくれているお客さんばかりだったし。
タイゾー:今まではソロパートのとき、ちょっと前に出るだけだったんですけど、自主企画ではお立ち台というものを初めて導入したんです。お立ち台に上ると、ステージ上の4人のなかで一番目立てるというか。お客さんの視線が、全員こっちへ向くんですよね。それが今までにないくらい気持ちよくて。すごく印象に残った、めちゃくちゃ素敵な経験でした。
南出:今の話を聞いて僕も思いだしたんですけど、お立ち台を導入する前は、僕のほうを向いているお客さんの視線が少ないように感じていて。でも、お立ち台を導入することによって、ソロパートが終わったあとに、みんなの視線が真ん中に戻る瞬間ができたんです。そこで「見てくれている」って感じられたのが嬉しかったですね。
中野:すごくいい意味で、次に繋げられるようなライブだったんじゃないかな。自信がつきました。
ON:実をいうと、今年に入ってから「今回のライブ、微妙やったな」っていうのが何回か続いていたんです。演奏的には、今までのライブもよかったんですよ(笑)。ただ「難しいことをしてめちゃくちゃカッコイイ」っていうのはあっても、お客さんに響いている感じがあまりしなくて。作品としても技術的にも、曲がけっこう難しくなってきたのもあり、ライブの感じをなかなか掴めていませんでした。でも、今回の自主企画でお立ち台を用意してみたり、変なセトリにしてみたりして、上半期の答えが見えたように思います。難しい曲でもお客さんに伝わるように見せきれたかなって。ライブを全身で楽しんでもらえるパフォーマンスの仕方を確立できたような気がしています。しかも、それをホームの金沢ではなく、東京・大阪でできたのは、僕たちにとって大きいものでした。
――ホームではない地域で、お客さんに伝わるパフォーマンスを確立でき、自信へ繋がったと。
ON:これからは、サーキットイベントのような初めて観てもらう人が多いような状況でも、変わらないパフォーマンスをしていけるようにするのが、僕らに大事な目標なのかなと。
南出:初めて僕らを観るお客さんを、自分たちの世界へ引きこみたいですよね。自主企画を経た今なら、お客さんを引きこむパフォーマンスができる自信が、すごくあります。
――自主企画では、アルバム『unknown』以降にリリースした3曲も披露されていましたよね。各曲についても、お話を聞かせていただきたいのですが、まず「Transcend even God」は、どのような楽曲でしょうか。
武瑠:ひたすら自信、みたいな。前だけ向いとる人がイメージで、「俺はやってやるんだ」っていう気持ちを曲調などにも反映させてます。
タイゾー:デモを聴いたときは「武瑠らしさ全開の曲が来たな」っていう印象が強かったですね。
南出:武瑠が僕らを信頼してくれていたり、Maverick Momがいろんなジャンルの曲をやっていく方向性だったりしたから、できた曲なのかなって。
武瑠:ポリフィアにめちゃくちゃハマっとる時期に作ったから、全体的にいつもと違う曲になったのかな。「Transcend even God」を作り始めた頃から、弾くフレーズがちょっと変わってきたかもしれないですね。上手く説明するのは難しいんですけど、よりテクニカルになった感じがします。
南出:もちろん、変わったといえば変わったけど、すごく成長しているというか。
タイゾー:どちらかというと、進化したって感じじゃない? アルバム『unknown』に入っている「Pride」と比べると、ポリフィアの影響も入ってるかなって感じは、たしかにするけど。でも、それよりも武瑠らしさがガツンと来た曲だなって思ったよ。
南出:今まで僕らの楽曲には「Transcend even God」みたいな激しい楽曲はなかったから、新しい風を吹かせてくれた感じがします。
――リリースから数ヶ月が経ち、改めて気づいた「Transcend even God」の魅力ってありますか。
南出:初めて披露したのが5月の『MiMiNOKOROCK FES JAPAN』というサーキットだったんですけど、そのときはリリース前だったのもあり、どういうふうにライブで魅せればいいのか少し迷っていたんです。でも、自主企画ではイントロで“ダカダカダン”って入ったときに、お客さんが「うっわ!」みたいな反応をしてくれていて。僕らが武瑠のデモを聴いたときに感じた衝撃をお客さんにも伝えることができたのかなって感じました。
――8月にリリースされた「存在の証明」は、どのような曲でしょうか。
武瑠:タイトル通りというか。「存在を証明するぞ」っていう。ちょっと「Transcend even God」とニュアンスが似とる部分がありながら、ダークな面も描きつつ、「それでも夢に向かって頑張りましょう」って曲になってます。
タイゾー:これくらいの時期から、武瑠が変幻自在に曲を作るようになっていったよね。「武瑠の曲なんだ!」って思うくらいの驚きとかっこよさで、デモが届いた時点で僕らもくらったもん。本当にワクワクが止まらなかった。武瑠は守備範囲が広いよね。僕が出来ないことを平然とやってのける。
武瑠:「存在の証明」は、ゲスの極み乙女。みたいな、軽くメロディアスでグルーヴがある曲があったらいいなと思って作った曲なんです。そこに、ちょっとロックの要素を足してみました。ちなみに、「Transcend even God」はcoldrainの「ENVY」がリファレンスになっています。
南出:「存在の証明」は、デモの歌を僕の家で録音したんです。J-POP感があって僕が気持ちよく歌えるラインを武瑠が分析してくれて、「こういうのにしよう」ってレクチャーしてもらいながら録りました。
武瑠:そういうふうに受けとめてくれてたんだ(笑)。
南出:違ったの?
武瑠:音が高すぎたかなと思って。
南出:まあね。歌っていったら出るようになるでしょう、みたいな感じ。曲ができることで「この期間までに歌えるようにならないといけない」と思うし、レベルアップに繋がっていると思ってるよ。難しいけど(笑)。
――最新曲「旅立日記」は、どのような楽曲でしょうか。
武瑠:メンバー全員共通して、一番難しい曲。雰囲気や情景を曲中で変えてみたいと思ったので、どんどんテンポが変わる曲になってます。先にリリースした2曲と比べると、コード感も広くしました。どうですか。
タイゾー:まさにその通りです。南出:めちゃめちゃいい曲やよ。
ON:メロディーが美しくて、キャッチーだよね。歌メロが曲の雰囲気にぴったりだし、オブリガードでくるギターリフも美しい。
タイゾー:夏の終わりを感じさせる壮大な曲というか。聴いただけで情景が思い浮かぶ。「Transcend even God」とは全然違うテイストだから、「武瑠って、こんな曲もできるのか!」って思った。1曲で満足できるような作品になってるのが、本当にすごい。
武瑠:歌詞はちょっと幻想的というか、MVのような美しい感じにしたくて。聴く人が前を向けるような、周りに促す感じの内容になっています。
南出:「Transcend even God」と「存在の証明」も、「前を向いて突き進み成長していく」ってメッセージがこめられていたけど、一番説得力があったのは「旅立日記」な気がする。勉強をしてこなかった人から「勉強しなさい」といわれるより、いろいろな経験をしてきた人から「勉強しなさい」といわれるほうが説得力あるじゃないですか。初めて聴いたとき、いろんなニュアンスを取り入れて、より多くの人に伝わる楽曲を作ろうという武瑠の想いが、楽曲に現れているんだと思いました。自分が体感したことになるんですけど、「旅立日記」は歌っていると自然に次の歌詞が頭のなかに流れてくるんですよね。ギターの音やドラムのキメが、曲の持つメッセージに呼応しているというか。ライブで披露したときに、改めて「こういうふうに繋がっていくんだ」って見えました。
――今回リリースされた3曲は展開が多いですし、楽曲の土台を作るリズム隊への信頼の厚さも感じました。
武瑠:それは、だいぶありますね。ドラムとベースに関しては「イメージを受け取って、解釈して新しく作って」みたいな感じなんやけど、いつも上手いことやってきてくれとる。
ON:「今のままやとできんやろうけど、できるように頑張って」という意味を含めて曲を出すのは、お互いさまというか。俺も「武瑠のセンスでいれてください」って曲を渡すときもあるし、大史にメロディーを書いてもらうこともあるし、タイゾーに変なお願いをすることもあるし。ソングライター目線で「こういうのができないとだよね」っていう曲を「できないじゃなくてやってください」って手渡せるのは、リズム隊に限らずバンド全体で信頼関係があるからできることだと思うんだよね。みんなで信頼しあって、お互いを高めあいながら活動できているんだろうなって。「Transcend even God」だって、今まであんなビートを叩いたことなかったから、武瑠からの課題だと思ってやったもん。
武瑠:最初は、けっこうひどかったしな(笑)。
ON:(笑)。
武瑠:だいぶ様になった。
ON:自主企画でけっこう整ったよね。「旅立日記」もまだ出したばかりだし、もっとまとめられそうな気がする。
タイゾー:これからやっていくにつれて、本当の意味でどんどん完成に近づいていくんじゃないかな。
――3曲のリリースと自主企画を経て、今はどのような心境ですか。
ON:今回の3曲で新しいMaverick Momを見せられたと思うので、もっと進化して「これもできちゃうぞ」っていうのを見せていきたいですね。
武瑠:以前と比べて、だいぶ成長できたし、頑張ろうって思います。
タイゾー:自主企画の成功体験を活かして、次のライブを迎えたいですね。
南出:今はいっぱいライブをしたい。僕らは楽曲でも勝負しているけど、今までで一番、生で観てくださったかたに「次のライブも行きたくなるくらい楽しかった」といってもらえる自信がある。いろんな楽曲を通して磨き上げたパフォーマンスや成長を、お客さんの前で見せたいな。
ON:いーっぱいライブをやりたいよね。今までは一発ボーンっていけたらいいなって考えていたんですけど、最近になって段階を踏むのが大事だと改めて思い始めたんですよ。1個1個のライブと本気で向き合って、サーキットでも「お客さんを取りに行くぞ」って気持ちで、僕ら自身でできることをやっていかないとなって思います。
――「できること」とは、具体的にどのようなことでしょうか。
ON:他のバンドと仲良くなって一緒にライブを企画したり、ライブに呼んでもらったりっていうのは、スタッフにやってもらうことではないので。横の繋がりを作るのは大事だと思います。とはいえ、僕らは陰キャだから、あまり友達ができないんですよね(笑)。他のバンドの人と仲がいいのは、大史くらい。
南出: 僕は東京へライブを観に行くこともあるので、そこで仲良くなったりしますね。とはいえ、都合がつかず、SNSのやりとりだけになってることも多いので、同世代と切磋琢磨できる機会は増やしていきたい。自主企画でHello Helloやカニバルと交流が持てたのは、本当に嬉しかったです。
ON:あとは、SNSをちゃんと運営したり、自分らで本当にいい楽曲を作ったり。今までは、けっこうスタッフに甘えていたので、僕らがもっと積極的に動いていきたいと思います。